ライブの「返し」とは?モニターの仕組み・頼み方・イヤモニの返しとの違い・セット図への書き方【完全ガイド】
ライブハウスのリハで必ず聞く「返し(かえし)」。結論から言うと、ライブの返しとは、ステージ上の演者が自分たちの演奏や歌を聞くためのスピーカー(モニタースピーカー)のことです。この記事では、転がし・ウェッジ・サイドフィルなど種類と呼び方の整理、ライブの音の仕組みである中音・外音、リハでの頼み方の実例フレーズとパート別の定番、音量は引き算で作る原則、本番中に返しが崩れたときの伝え方、ライブハウスとホール/フェスの違い、やってはいけない扱い方、そしてセット図への書き方まで、初ライブでも困らないように解説します。
結論:返しとは「演者が自分たちの音を聞くためのスピーカー」
返しとは、ステージ上の演者に向けて音を出すスピーカー(モニタースピーカー)のこと。客席向けのメインスピーカーはステージより前を向いているため、ステージ上では自分の歌や演奏がほとんど聞こえません。そこで、演者の足元に置いたスピーカーから必要な音を「返して」もらう——これが「返し」の語源です。
返しが適切だと、自分の声の音程・メンバーとのリズムが取りやすくなり、演奏の質が大きく上がります。「返しを制する者はライブを制する」と言われるほど重要な存在です。
呼び方の整理:転がし・ウェッジ・モニター…ぜんぶ同じ
現場ではいろいろな呼び方が飛び交いますが、次はすべて同じものを指します。
| 呼び方 | 由来 |
|---|---|
| 返し | 演者に音を「返す」から |
| モニター/ステージモニター | 演奏を監視(モニター)する音の意 |
| 転がし(ころがし) | 床に転がすように置くから |
| ウェッジ | くさび形(wedge)の形状から |
| フロア/フットモニター | 床・足元に置くから |
| フォールドバック | 英語の foldback(折り返し)から |
似ているけれど別物なのが、ステージ両脇から鳴らす大型のサイドフィルと、イヤホン型のイヤモニ(IEM)。イヤモニとの違いは後述します。
返し(モニター)の種類——用途で使い分ける4タイプ
ライブハウスでは「返し=床の転がし」で通じますが、現場が大きくなるほど複数のモニター機材を組み合わせて使います。主要な4タイプを整理します。
| 種類 | 置き場所 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| フロアモニター(転がし) | 演者の足元(床) | ライブハウスの標準。全パート共通 |
| サイドフィル | ステージ両袖(下手/上手側) | 広いステージで全体に音を広げる補助用 |
| イヤモニ(IEM) | 耳(インイヤー) | 自分専用ミックスが必要な人・ハウリング対策 |
| パーソナルモニター | 手元のミキサー+自分の返し | 各自が自分でバランスを調整したい現場 |
ライブハウスの対バンで「返しを何面」と数える単位は、フロアモニターの台数のこと。ボーカルの前に1面、ドラム前に1面、下手・上手のギター前にそれぞれ1面…と足していきます。1〜4面が一般的で、多くても6面前後が目安です。
「中音」と「外音」——ライブの音は2つある
返しを理解する鍵が、中音(なかおと)と外音(そとおと)という考え方です。
| 中音 | 外音 | |
|---|---|---|
| どこの音? | ステージ上で鳴っている音 | 客席に届く音 |
| 中身 | アンプの生音+生ドラム+返し | PAがメインスピーカーで作るミックス |
| 誰のため? | 演者(演奏のしやすさ) | お客さん(聞こえの良さ) |
リハ(サウンドチェック)での頼み方
リハでは、PAから「返し、何かほしい音ありますか?」と聞かれます。ここで固まらないための実例フレーズがこちら。
- 「返しにボーカルください」——いちばん基本のお願い
- 「ボーカル、もう少しください」——足りないとき(「ちょうだい」でも通じます)
- 「ギター、ちょっと絞ってください」——大きすぎるとき
- 「返し、OKです」——ちょうど良くなったら
何を返してもらうかは、パート別の定番があります。迷ったらこの表のとおりでOK。
| パート | 返してもらう定番 | 理由 |
|---|---|---|
| ボーカル | 自分の声 | 音程が取れないと歌えない。最優先 |
| ギター | ボーカル(+自分の音少し) | 自分の音はアンプから聞こえる |
| ベース | ボーカル・キック | リズム隊のロック用 |
| ドラム | ボーカル・上物(ギター等) | 生音で聞こえない歌と上物を補う |
| キーボード | 自分の音・ボーカル | キーボードは生音が無いため |
音量の基本原則——返しは「引き算」で作る
初心者ほど「聞こえないから上げてください」を連発しがちですが、これはドツボにハマる典型パターンです。ステージ上で何かを上げると、他のマイクにも回り込んで他の音が濁り、結局「もっと上げてください」の悪循環になります。
プロの現場で共有されている原則は次のとおり。
- ✅ 大きすぎる音を下げる(引き算)を先に試す。ボーカルが聞こえないなら、ギターを絞ってもらう
- ✅ 全員が欲しい音は、返しではなくアンプ側で解決。「みんなベース欲しい」ならベースアンプを少し上げる方が速い
- ✅ リズムの柱(キック・ボーカル)を最優先。合わせやすさが段違い
- ✅ 「基準曲」を1曲決めておく。リハでその1曲だけ通して返しを固めれば、他の曲でも大きく崩れない
返しが「濁る/聞こえない」根本原因——バンドの音作りと帯域整理
返しは音量調整だけの問題ではありません。ステージ上でバンド全体の音がぶつかっていると、いくら返しを上げても目的の音が浮かび上がってきません。この現象を音響ではマスキング(大きな音が近い帯域の小さな音を覆い隠す現象)と呼びます。
| 帯域 | ぶつかりやすい音 | 返しで起きること |
|---|---|---|
| 低域(〜200Hz) | キック × ベース | どちらも「ドン」と聞こえるだけで音程が取れない |
| 中域(200Hz〜2kHz) | ボーカル × ギター(歪み) | 歌のフレーズがギターのコードに埋もれる |
| 高域(2kHz〜) | シンバル × ボーカルの子音 | ハイハットがうるさく歌の輪郭がぼやける |
この場合、返しの音量調整より先に、音源側で帯域を整理する方が効果的です。プロの現場で行われている定番アプローチは次の3つ。
- ✅ ベーシストがローエンドを整理:ベースアンプで超低域(〜80Hz)を少し削るとキックとの分離が良くなる
- ✅ ギタリストが中域の歪み量を見直す:ステージで気持ちいい歪みは、ボーカル帯域をつぶしがち。歪みを1段階抑えると歌が浮く
- ✅ ドラマーがシンバルを抑える:シンバルは客席まで生音で届く楽器。中〜大会場では8〜9割の力で叩くだけで返しの音抜けが劇的に変わる
ハウリングと返しの関係
「キーン」というハウリングは、返しの音がマイクに回り込み、増幅がループすることで起きます。返しの音量を上げるほどリスクは上がるので、「聞こえないから上げて」を繰り返すより、中音全体(アンプ音量)を下げる方が解決することも多いです。マイクを返しのスピーカーに向けるのもNG。詳しい仕組みと対策はハウリング(フィードバック)とはを参照。
本番中に返しが崩れたら——ジェスチャーで伝える
本番中に「返しが聞こえない」と気付いても、演奏を止めるわけにはいきません。PAはステージ上の演者を常に見ていますので、次のようなシンプルなジェスチャーで通じます。
| ジェスチャー | 意味 |
|---|---|
| 自分を指さす→上を指す | 自分の返しを上げてください |
| 自分を指さす→下を指す | 自分の返しを下げてください |
| マイクを指さす→上を指す | マイク(=ボーカル)を上げて |
| 耳を指す→首を横に振る | 返しが聞こえない |
| OKサイン(🆗) | ちょうどいい、ありがとう |
曲間の一瞬でも伝えられるので、事前にメンバーとPAに「本番中こういう合図します」と一言共有しておくと安心です。逆に、事前リハと違う音量に本番でいきなり変えたくなっても、PAはリハの設定を基準に作っています。大きく変えたい時は必ずジェスチャーで相談を。
会場規模による返しの違い
返しの構成は会場規模で大きく変わります。自分がこれから出る現場のイメージを持っておくと、事前準備がスムーズです。
| 規模 | 返しの構成 | ポイント |
|---|---|---|
| 小規模ライブハウス(〜100人) | フロアモニター 1〜3面 | 系統は1〜2つ。ボーカル中心のシンプル構成 |
| 中規模ライブハウス(100〜500人) | フロアモニター 4〜6面 | パートごとに独立系統。事前セット図が効く |
| ホール(500〜2000人) | フロアモニター+サイドフィル | ステージが広く、袖のサイドフィルが必須 |
| フェス・大型野外 | イヤモニ+サイドフィル+転がし | ハウリング対策でIEM主流。転換時間が短くセット図必須 |
大きい現場ほど「事前にどんな返しをどこに欲しいか」を図で共有する重要性が上がります。とくにフェスは転換時間が短いので、口頭説明の余裕がありません。
返しの扱いNG集(現場マナー)
- ❌ 返しに乗る・足をかける:機材の破損・転倒事故のもと。絶対にNG
- ❌ セットリストを返しに貼る:スピーカーの音を塞いで音が変わります。床に貼るのが基本(会場の指示に従う)
- ❌ 飲み物を返しの上に置く:こぼしたら高価な機材が故障。床の安全な場所へ
- ❌ 位置を勝手に動かす:向きや位置はハウリングと計算済み。動かしたいときはPAに相談
イヤモニの返しとは——スピーカーからイヤホンへ
イヤモニの返しとは、返し(モニター)の音を床のスピーカーではなくイヤホンで聞く方式のこと。イヤモニはインイヤーモニター(IEM)の略で、テレビの音楽番組やフェスでアーティストが耳につけている「あれ」です。仕組みは、PA卓で作ったモニター用ミックスを送信機からワイヤレス(または有線)で腰のレシーバーへ送り、イヤホンで聞く——つまり「返し」という役割は同じで、出口がスピーカーかイヤホンかの違いです。
| 床の返し(転がし) | イヤモニの返し(IEM) | |
|---|---|---|
| 聞こえ方 | ステージの生音と混ざる | 遮音され自分専用ミックスだけが聞こえる |
| ハウリング | 音量を上げるほどリスク増 | スピーカーが無いのでほぼ起きない |
| 中音への影響 | 面数が増えるほど中音が大きくなる | 中音を下げられ、外音がクリアになる |
| 導入ハードル | 会場の機材でOK・持ち物不要 | 機材の持込みと事前準備・慣れが必要 |
| 主な現場 | ライブハウスの標準 | プロの現場・フェス・同期モノのバンド |
音の安定性ではイヤモニが圧倒的ですが、ライブハウスの対バンでは床の返しが基本。イヤモニは専用機材と「耳をふさいだ状態で演奏する慣れ」が必要です。導入するなら、まずはクリックを聞くドラマーの有線イヤモニから始めるのが定番で、ボーカルだけイヤモニ+他は転がし、という併用も普通に行われます。
イヤモニを使う場合は、その旨をセット図に明記しましょう(「Vo=イヤモニ持込・ワイヤレス」など。ワイヤレスなら周波数帯の記載も)。機材構成やセット図の書き方の詳細はIEM(イヤモニ)とはにまとめています。
セット図での返しの書き方
返しの希望は、口頭よりもセット図に描いて渡すのが確実です。書き方は3ステップ。
- ✅ くさび形(台形)の記号を、欲しい位置の足元に置く——面数と位置が一目で伝わる
- ✅ 備考に「返し:Vo中心でお願いします」など中身の希望をひとこと
- ✅ イヤモニ使用者がいるなら「Vo=イヤモニ(持込)」と明記
ステージの向き(上手・下手)を揃えて描けば、PAはリハ前に返しの配置を準備できます。セット図全体の書き方はセット図の作り方・書き方【完全ガイド】をどうぞ。